エステル・ユスターシュの航海日誌

FINAL FANTASY XIV Player's Logbook

Della Mezzaluna ~フリコ・フォンティナの物語~

※この物語は本人の許可とチェックを得たけど単なる私の妄想です。
※実物のふりこるのはとても素敵な人です!!!!!!!!!








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 仮に、万物をふたつにだけ分けるとしたら、それは自分と世界であるという。
 すなわち、自と他である。
 科学にせよ、魔法にせよ、文学にせよ、美術にせよ。
 はたまた、星空の果てを見上げることも、精神の深淵を覗くことも、それは世界または自分を探求することに他ならない。
 これを一般に学問、または哲学と呼ぶ。
 その一角には呪術と黒魔法、異界と妖異――すなわち、破壊の力と破壊されることのない闇について学ぶ道がある。
 エオルゼアにおいて、力と闇を探求する歴史はとてつもなく長い。力を求める者によって、秩序を求める者によって、孜々営々と行われてきた。
 それそのものが、まさに魔の道として辿れるほどに、旅にも似た探求の物語が二千と三百年ほど紡がれている。
 然してこれは、ひとりの黒魔道士の物語。
 破月魔道とも呼ばれたフリコ・フォンティナの物語である。

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「炎獄に鎖されし、臓腑に滾る劫火よ……」
 彼女の呪文に呼応して、星極性に激した火属性黒魔法が呪具の先端へ宿る。呪術士ギルドでは失われて久しい魔法だが、彼女はいとも簡単に制御していた。
「咎人の罪科を問え! ファイジャ!」
 夜気さえ焦がすほどの火焔が、異界ヴォイドより来る異形の怪物――妖異を一瞬にして火だるまとした。
 その火力は凄まじく、さしもの妖異も悲鳴をあげながら崩れ去ることしかできない。
 くるり、と振りかえる黒魔道士フリコ。
 彼女の所作の優雅さは、この世のものではない断末魔の叫びすら、まるで玲瓏に聴かせるほどの力があった。
 ある意味、それこそ残酷であろう。
 双蛇党統合司令部付の検分役が顔を青ざめさせたのは、なにも妖異に恐れたからではない。彼とて鬼哭隊出身の猛者である。
 彼が恐れたのは、彼女の力と、立ち居振る舞いだ。
「さて」
 フリコの流し目が、空を切り裂くヴォイドクラックへと向けられた。
 たったそれだけで、検分役の将校は腰を抜かしそうになった。そもそも、その間隙を埋めるために彼女を雇ったというのに。
「この程度の隙間にサンプリングの価値もないですし、閉じてしまいましょう」
 食後にお茶を入れるかのような気軽さと、例の残酷さ。そのふたつを同時に纏ったフリコは異界に繋がる世界の穴へと歩み寄った。

 フリコ・フォンティナははるか東方――オサード小大陸はアジムステップにその始祖を持つアウラ・ゼラの女性である。諸族割拠する大草原にあって、かつて滅んだホトゴ族の末裔だという。
 グリダニア移民三世にあたり、エオルゼアにおけるアウラ族としては最初期の家に生まれた。一般的に余所者には厳しい森都だが、黒衣森の精霊の許しさえあればそれを受け入れざるを得ない。彼らにとって精霊のお告げは絶対なのだから。
 だが、そうは言っても、グリダニアどころか当時のエオルゼアにおいてアウラ族は絶対的な極少数民族。フリコの出生を機に改姓しようとも、彼女の生地フォールゴウドの民は決して穏やかには接してくれなかった。
 子供らしい無垢ないじめが幼少期の彼女を襲った。学者の父と狩人の母は自分にも娘にも厳しい人物であり、救いの手を差し伸べようとはしなかった。
 しかし、フリコは屈しなかった。
 一族由来の赤い瞳と対をなす、彼女だけが持って生まれた白い瞳。
 誰が呼んだか、月メネフィナとその衛星ダラガブのような両の瞳。
 その眼に睨み返されてしまうと、いじめっ子どころか大人たちも居竦んでしまった。それほどの底知れぬ、何か。後の「破月魔道」の片鱗であろうか。
 ともあれ、フリコは自身の成長を妨げる何人をも退けた。
 いじめっ子を、排他的な大人を、権威的な森都の教師をも退けた。
 齢十にもなると、父ケイシャン・フォンティナに師事し、その研究の後を追った。エオルゼアの考古学や史学を探求するケイシャンがベラフディアやマハといった古代都市国家の解明に着手すると、フリコも学問という探求の道に没頭していった。
 特に、彼女の心を捉えたのは呪術である。

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 死者が腐らぬようブリザドで保ち、死者が蠢かぬようファイアで浄化し、死者の無念を晴らすためサンダーで天誅を下す。
 強大な破壊力を持つ魔法を操り、敵に確実な死をもたらす力。
 破壊による秩序の確立。
 そんな呪術がフリコの性格や趣向に合っていたのだろう。
 若年で異人、異教徒でもあったフリコだったが、ナル・ザル教団はアルダネス聖櫃堂の呪術士ギルドへと入門した。
 ギルド入門に際して、誰もが投げ出す最初の試練「呪術の基本を記した百八冊の本を読む」を成し遂げたというのだから、彼女のやる気たるや推して知るべし。
 以降、水を得た魚のように、帆に風を受けた船のように、フリコは呪術を極めていった。
 それどころか彼女の知見は、古の魔法都市マハより編み出された究極の破壊の力「黒魔法」にまで及んだ。
 これには彼女を育てた呪術師ギルドも難色を示したが、フリコが修得した黒魔法の力をグリダニアにて軍事転用することもなく、人知れず諸問題の解決に活用したことで事なきを得た。

 第七霊災以降の混迷の時代、環境エーテルの乱れからか、エオルゼア各地でヴォイドゲートやヴォイドクラックが見つかっている。
 異界ヴォイドと現世を繋ぐ世界の間隙より現れ出でる怪物、妖異。
 そのような世界の無秩序を正すのも呪術士の役割であり、より強力な妖異をも制すには黒魔法を操る黒魔道士の力が求められる。
 かつてカルテノーに消えた英雄「光の戦士」たちを失ったエオルゼアにおいて、ヴォイドや妖異の対処に頼れる人材は少なかった。
 各地のグランドカンパニーや冒険者ギルドの記録に、古語表記の「メッザルーナ」または標準語表記の「破月魔道」という二つ名を持つ黒魔道士が現れたのはこの頃である。
 その名はもちろん、フリコ・フォンティナといった。

乗員募集_紋付き

「新規乗員募集のお知らせ」
 第七霊災から五年、十二賢者の行進作戦の完遂を受けてエオルゼア三都市国家により宣言された第七星暦元年のこと。
 新時代を迎えた世の浮かれをよそに、フィールドワークの一環として低地ラノシアを訪れたフリコは一枚のチラシを手に取った。
 それは、さる武装商船の乗員募集のチラシであった。
 グランドカンパニー黒渦団に徴発されたリムサ・ロミンサ船籍の武装商船といえば聞こえはいいが、実質的に海賊であろう。海賊禁止令に従いつつ、公的な私掠免許を以て、ガレマール帝国の船を襲う海の賊。
 齢四十を越え、グリダニア国内で妖異学者としての地位を確固としているフリコにとってはさしたる興味もない内容である。
 だが、彼女はその日の宿を探していた。
 低地ラノシアの新興宅地、ミスト・ヴィレッジ。
 その隅っこに建つサルーン、九尾の猫亭。
 店には客室もあるというので、チラシに記された住所へとフリコは足を向けた。日の暮れかかる、夕刻のことであった。

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 上階の客室で荷を解き、食堂へ降りてくると、例の船の乗員志願者が並んでいた。列の先頭に座っているミッドランダーの女が船長だろうか。小役人か下働き商人のような人相で、とても海賊の頭領には見えないが。
 それに、列といってもたいした人数ではない。
 断罪党や百鬼夜行、または紅血聖女団あたりの大手海賊団ならいざ知らず、船一隻の弱小海賊では乗り手も集まらないに違いない。
 ちらりと見やれば、案の定、有象無象の群れである。
「だからぁー!」
 件の船長がやたらと通る声と共に立ち上がった。
「なんで誰も帳簿ひとつつけられないわけ!?」
 そっぽを向く一同。
「主計長いないと届出上問題あるでしょお!?」
 船にはあまり縁のないフリコには彼女が叫んだ「パーサー」という単語の定義はわからなかったが、前後の文脈から察するに会計係のようなものだろう。
 そこまで言うのであれば船長自らやればいいだろうに――
「私も計算とかできるつもりだったんだけど、やってみたらなんかいつもちょっとだけ答えズレてたの! だから、黒渦団にめっちょ怒られたんだから!」
 そんなにハッキリと無能を開示されても困る。事実、列から数人が去っていった。フリコも鼻で笑うのを堪えた。
「だーいーたーいー!」
 女船長はなおも自説を続ける。
「私がやったんじゃつまんないじゃん!」
 なにがつまらないものか。自己の能力を以て事を為すことほど面白いことはないはずだ。学問を、哲学を、世界を探求してきたフリコにとって、それは当然であった。
「だから、誰か主計長やってってば!」
 口癖らしいその接続詞の前後関係は、もはや完全にわがままである。彼女は誰かに頼ることを恥とも思っていない。
 フリコにとって、それは未知であった。
 厳しい父母の教えにもなく、人生において誰かを頼ったこともない。冒険者と仕事を共にしたこともあるが、常に己が実力においてすべてを解決してきたのだ。
 船長の主張はフリコにとって我慢ならないものですらあった。
「お、お給金もちょっとだけ増やす、し! あとは、えーっとえーっと、オヤツも増やすし!」
 だから――ひとはそれを気まぐれと呼ぶのだろうか。だが、フリコにとっては、興味深い新たな研究分野にも思えたのだ。
 世界はまだまだ広く、己もまた深い。フリコの新たな探求が始まった。
 ずいと、海賊志願者たちを割って進み出た。
「やってもいいですよ、主計長」
 このとき、奇しくも夜空には弓張月が昇っていた。

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 然してこれは、とある海賊船の主計長――後の副長の物語。
 破月魔道とも呼ばれたフリコ・フォンティナの物語の、始まりである。

 エオルゼア群像